No.4 新座志木中央総合病院 林淳慈先生 

人工膝関節置換術の新たな展開
ロボット支援手術「CORIサージカルシステム」

新座志木中央総合病院
院長
人工関節・リウマチセンター長
林 淳慈 先生

はやし・じゅんじ
1986年、東京医科大学卒業後、昭和大学藤が丘病院整形外科に入局。1999年、新座志木中央総合病院整形外科部長、昭和大学藤が丘病院整形外科兼任講師に就任。同院の副院長を経て、2013年より院長に就任。人工関節・リウマチセンター長を兼任。整形外科医師として第一線に立ち続け、地域完結型医療の実現を目指し医療連携にも尽力している。

【認定医等】
日本整形外科学会 整形外科専門医・認定リウマチ医・認定脊椎脊髄病医・指導医
日本リウマチ学会 リウマチ指導医・リウマチ専門医
ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター
日本骨折治療学会 会員
日本脊椎脊髄病学会 会員
日本人工関節学会 認定医

 新座志木中央総合病院は2022年10月より、整形外科用次世代型ロボット支援手術システム「CORIサージカルシステム」を導入しました。同システムは、「人工膝関節置換術」の際、医師が決めた範囲のみを切除するようにコンピューターが制御を行う手術支援ロボットで、骨切除の位置や切除量を制御することで、より正確な手術が期待できるといいます。詳細について、同院院長 兼 人工関節リウマチセンター長を務める林淳慈先生に話を伺いました。

「CORIサージカルシステム」導入のメリット

―――まずは「人工膝関節置換術」について教えてください。

 「人工膝関節置換術」とは、変形性膝関節症や関節リウマチなどで軟骨、骨がすり減って痛みが生じた際、該当する部分を削って人工膝関節(インプラント)を入れ、痛みなく歩けるようにするための手術です。現在、変形性膝関節症の推計患者数は約2,500万人と言われており、人工膝関節置換術は年間約8万人に対して行われています。埼玉県では年間約3,000人が手術を受けています。再置換率の割合は非常に低く、97.5%が再手術を行っていないという驚異的なデータがあります。しかし、術後患者の満足度調査では、全体の約8割が“満足している”のに対し、“足を引きずることがまったくない”と報告したのがわずか47%と、完全に症状は改善されてはいないということが判明しました。そこで私は、残る症状を何とか改善させたいと考えました。

―――そこで、ロボット支援手術システム「CORIサージカルシステム(以下、CORI)」の導入に繋がるのですね。

 その通りです。これまでの「人工膝関節置換術」は、生まれつきの骨の並びに逆らってインプラントを挿入していました。日本人に多いO脚だった膝を、強制的に真っすぐにすると膝の内側はかなりきつくなります。当然ですが、痛みが生じますよね。また、技術の進歩により、脛骨の内側、大腿骨の外側の角度を測定することにより、患者さまの膝が悪くなる以前の膝の状態を推察することができるようになりました。それをタイプ別に分類し、患者さまに合った角度での挿入が可能となりました。これにはインプラントで使われるポリエチレンの耐久性が大きく向上したことも要因にあります。
 このように、今までのように一律ではなく、患者さま固有の膝形態に合うように、さらには内外側のバランスが均等になるようにするには、精密な手術が必要です。そこでロボット支援手術の導入に踏み踏み切ったのです。

―――メリットを教えてください。

 3つあります。
 1つは「正確性」です。CORIは、患者さまの個々の下肢の形状や軟部組織バランスを考慮に入れた術前計画が可能で、この計画を1度、1㎜の誤差範囲で再現することができます。
 2つ目は「軟部組織に優しいこと」です。細かい設定が可能で、術後における脛骨の内側、大腿骨の外側のバランスをシミュレーションしてくれると同時に、余計なところは削りませんので、周囲の組織も傷みません。また、これまでO脚の患者さまの膝をまっすぐにしようとすると、内側の靭帯を大きく剥離することが必要でしたが、O脚のままインプラントを挿入しても軟部組織の剥離は最小限に済みます。
 3つ目は「患者さま固有の手術がオーダーできること」です。CORIは先述した通り、患者さま固有の膝形態および靭帯バランスを優先するオーダーメイドの手術ですので、患者さまの術後の満足度が向上します。また、患者さま独自のシミュレーションを行うことで、その結果が数字で残りますので、仮に術後“痛み”が生じたとき、なぜ痛いのかを検証することが出来ます。ここも優れたポイントです。施術者の“技術”や“勘”に頼ることもなくなりました。

―――これまでどのくらいの施術を行いましたか?

 当センターでは「人工膝関節置換術」と「人工股関節置換術」を行っており、人工関節置換術自体は年間180~200件行っています。CORIでの「人工膝関節置換術」は昨年10月に導入して、これまで50例ほど行いました(2023年5月時点)。ロボット支援手術は日々進化しています。CORIにおいて、「もっとこうしたらいい」という施術者の意見を反映することがまだまだ可能だと考えますので、それに期待したいと思います。

原因を探り、
次に活かすための努力は怠らない

―――林院長が診療や手術で大切にされていることを教えてください。

 患者さまがハッピーになることです。そこに自分がどれだけ介入することができるか――それしかありません。患者さまが「歩けるようになりました!」「これが出来るようになりました」と嬉しそうに報告してくれるのが私の最大の幸せであり、やりがいです。
 そして、日々患者さんのデータをとり、論文を読むこと、勉強することを自分に課しています。仮に、手術をした人工関節の成績が良くなかった場合、そこには必ず原因があります。その原因を探り、回避するためにはどうしたらいいのか、次に活かすためにはどうしたらいいのかを考えます。進歩しない日があってはいけないというのが持論です。基礎医学からしっかりと勉強し、手術前には万全に準備を整え、手術中は冷静を保つ。手術後にはそれを精査し、次の手術に進む。そういったことを繰り返してこそ、医師はメスを握る資格があるのだと思います。

―――今後の展望をお聞かせください。

 後進の指導に注力していきたいです。現在、日本人工関節学会の認定医は埼玉県に39人いますが、朝霞地区や東入間地区には私ひとりという非常にさみしい状況です。同認定医の水準は、手術はもちろんのこと、人工関節に関する学会発表や論文発表するなどの条件をクリアした医師です。そういった医師の育成に力を入れていきたいと考えます。

―――本日はありがとうございました。

新座志木中央総合病院
埼玉県新座市東北一丁目7番2号
TEL:048-474-7211(代表)