No.13 戸田中央総合病院 立花慎吾先生/堀部俊哉副先生/稲垣夏子先生

「がんゲノム医療」に特化した診療情報管理システム
戸田中央総合病院
がんゲノム医療
外科 立花慎吾副院長
消化器内科 堀部俊哉副院長
がんゲノム医療外来
東京医科大学病院遺伝子診療センター 稲垣夏子センター長
戸田中央総合病院は2025年4月、埼玉県南部医療圏で初となる「がんゲノム医療※連携病院」に指定され、「がんゲノム外来」を新設しました。 地域での体制整備に向け、同院では各診療科の医師や看護部、薬剤科、病理・検査部門、医事課などが参加するワーキンググループを立ち上げ、診療と運用の仕組みづくりを進めてきました。その成果として誕生したのが、がんゲノム医療に欠かせないC-CAT(がんゲノム情報管理センター)への情報入力を電子カルテ内で行える独自の診療情報管理システムです。このシステムは立花慎吾副院長を中心に、多職種スタッフが協働し、同院「がんゲノム外来」を担当する東京医科大学病院遺伝子診療センター長・稲垣夏子先生の助言を得ながら構築されました。今回は、そのシステムの特徴と地域医療への貢献について、立花慎吾副院長と稲垣夏子先生に伺いました。
※がんゲノム医療とは、がんの原因となる遺伝子の変化(遺伝子変異)を調べることで、一人ひとりの体質や症状に合わせて診療・治療などを行う医療のこと。検査は採取したがん細胞や血液から数十~数百の遺伝子情報を同時に解析する「がん遺伝子パネル検査」を実施。結果をもとに腫瘍内科医や遺伝の専門医らでつくる「エキスパートパネル(専門家会議)」で議論し治療法を検討、最終的な治療方針は主治医が患者さまと相談して決定する。
唯一無二のシステム構築
―――「がんゲノム外来」を開設した想いをお聞
かせください
- 稲垣
- 当院が位置する埼玉県南部医療圏には、これまで「がんゲノムプロファイリング検査」を実施できる病院がありませんでした。地域の患者さまが都内まで通わずに最先端のがんゲノム医療を受けられるようにしたい、その想いから「がんゲノム外来」を立ち上げました。
- 立花
- 実際に、がんゲノム医療を希望される患者さまの多くが大学病院まで通院されていました。地域の方々により身近な場所で同等の医療を提供したいという気持ちが強くありました。
―――貴院ならではの特徴をお教えください。
- 稲垣
- 最大の特徴は、がんゲノム医療に欠かせない、がんゲノム情報管理センター(C-CAT)への臨床情報入力を電子カルテ内で行えるようにした点です。通常、連携病院ではC-CAT入力専用の端末が限られており、主治医はその端末が設置されている場所まで出向かなければなりません。台数制限やパスワードの共有の制約もあり、入力作業が大きな負担となっていました。当院では電子カルテの中にC-CAT入力画面を組み込み、主治医が自身の診療ブースで直接入力できるようにしました。これにより業務効率が大幅に改善しました。
- 立花
- もう一つの大きな利点は、院内でデータを蓄積・活用できるようになったことです。従来は専用端末で入力した情報がC-CATに送信されるだけでしたが、今は電子カルテ内で入力した内容を院内データとして保存できます。これにより、地域特有のがん患者さまの傾向を把握し、地域医療の質向上にもつなげられるようになりました。


―――システムの利点を、もう少し詳しく教えて下さい。
- 稲垣
- 同システムの画期的な点は主に3つあります。
1. 全スタッフで情報共有できるところ
がんゲノム検査は、「がん遺伝子パネル検査」から「エキスパートパネル(治療方針の検討・提示)」まで、約2か月を要します。当システムでは、この2か月間の検査・解析プロセスを電子カルテ内で一元管理することができ、検査の進捗状況をすべての職員が同じ画面で確認できます。主治医だけでなく、がん治療に関わるすべてのスタッフが、「今どの段階にあり、次に何をすべきか」を把握できます。これにより、検査の遅延や情報の行き違いを防ぎ、検査開始から治療方針決定までの流れがスムーズになりました。
2. 電子カルテ内にて運用できるところ
C-CATへの臨床情報入力項目は分岐質問が多く、入力漏れが起こりやすい構造です。当システムでは電子カルテの「スマートテンプレート」機能を用いて、必要な質問のみを順次表示し、必須項目を全て入力すると登録が完了する仕組みを採用しました。これにより入力漏れを防止しています。さらに、全データを電子カルテ内で管理できるため、情報の抽出や統計処理が容易となり、学会発表などの二次利用も可能です。また、コスト算定漏れの抑制にもつながりました。
3. 担当者の負担が軽減されるところ
すべての業務が電子カルテ内で完結しているため、どの職種でも必要な情報を即座に確認・入力できます。専任者でなくても対応できる体制が整い、担当者一人ひとりの業務負担が大幅に軽減されました。
―――このシステムはどのようにして生まれたのでしょうか。
- 稲垣
- がん医療に携わる多職種が集まり、「現場が本当に使いやすい仕組みをつくろう」という想いで意見を出し合い、院内で開発したものです。特別な外部システムではなく、電子カルテの拡張機能を活用して構築した点も特徴です。
- 立花
- 中核拠点病院並みの運用を、連携病院として自力で実現できたことは大きな成果だと感じています。




―――来年からは院外からの患者さまの受け入れを開始すると伺いました。今後の展望をお聞かせください。
- 立花
- 今後はさらに入力項目の改良やデータ分析機能の強化を進め、院外の患者さまにもスムーズに検査をご提供できる体制を整えていきます。地域の皆さまに「がんゲノム医療」を理解してもらうための市民講座なども企画中です。
- 稲垣
- 「がんゲノム医療」は特別なものではなく、標準医療の一部として定着しつつあります。当院では、日常診療で使用する電子カルテを中心に据えたこの仕組みを通じて、地域に根ざした質の高い医療を実現していきたいと思います。

―――本日はありがとうございました。












