No.11 一橋病院 渡邉実先生

股関節・人工関節・再置換術・骨切り術の
スペシャリストが「股関節センター」を開設
—— 「大腿骨球状内反回転骨切り術」を考案

一橋病院
副院長/股関節センター長
渡邉 実 先生

わたなべ・みのる
2003年、昭和大学(現・昭和医科大学)卒業。同年、昭和大学藤が丘病院(現・昭和医科大学藤が丘病院)整形外科に入局。渥美敬先生(現・佐々総合病院特別顧問・股関節センター長)指導の元、大腿骨頭壊死症に対する「骨切り術」等を学ぶ。また、2014年から2015年まで国内屈指のHigh Volume Center(手術件数の多い医療機関)である「えにわ病院」(北海道恵庭市)に国内留学し、人工股関節、再置換術をマスター。2020年、大腿骨頭部の骨壊死に対するナビゲーションを用いた効果的な大腿骨頭温存外科手術「大腿骨球状内反回転骨切り術」を考案、論文も発表。2025年4月、一橋病院に股関節センターを開設。同時に同副院長・同センター長に就任、現在に至る。

【手術数】
■人工股関節全置換術:2,100例(2016年~)
■人工股関節再置換術:130例(2016年~)
■大腿骨頭回転骨切り術:30例(2021年~)
■大腿骨球状内反回転骨切り術:45例(2021年~)
■棚形成術:35例(2021年~)
※2025年5月の取材時時点

今年4月、一橋病院に「股関節センター」が開設され、センター長として就任したのが渡邉実先生です。昨今、コンピューター支援手術(CAS :Computer-Assisted Surgery)を用いた手術が主流となりつつある整形外科領域において、渡邉先生はこれまで2,500例以上の手術を執刀してきたスペシャリストです。今回は股関節センターの特徴や立ち上げへの想い、先生が考案した「大腿骨球状内反回転骨切り術」についてお話を伺いました。

低侵襲かつ効率的な治療法を追求

―――股関節センター立ち上げの経緯や開設への想いをお聞かせください。

渡邉
 私自身、これまで約20年間にわたり大学病院で股関節疾患の治療に専念し、累計2,500例以上の手術を執刀してきました。近年では2021年よりCT-based Navigationを用いたコンピューター支援手術(CAS)を導入し、人工股関節置換術や大腿骨骨切り術の精度と安全性を高めることに注力してきました。この先進的な治療技術をより多くの患者さまに届けたい。その想いが次第に強くなり、臨床に専念できる環境でより専門性を発揮したいと考えるようになり、ご縁から当院で股関節疾患に特化したセンターを立ち上げる機会をいただきました。
 ゼロからのスタートでしたが、理念を共有できるスタッフに恵まれ、無事に形を整えることができました。立ち上げに際しては、最新の医療機器の整備や手術室スタッフに対する手術手順の教育など、多くの課題がありましたが、そのすべては「患者さまを痛みから解放し、再び自分の足で歩けるようになって欲しい」という信念に基づくものです。特に手術室スタッフの献身的な支援には言葉では尽くせないほど感謝しています。開設からわずか1カ月で通常の人工関節手術時間約40分程度で完了できる体制を整え、スムーズな治療提供が可能となりました。これは大学病院で行っていた治療とほぼ変わりません。

―――センターの特徴や対象疾患・検査/治療についてお教えください。

渡邉
 当センターでは「安心・正確・低侵襲」をモットーに、CASを駆使した股関節専門治療を提供しています。対象疾患は以下の通りで、全年齢層にまたがる幅広い股関節疾患に対応しています。
・ 変形性股関節症
・ 大腿骨頭壊死症
・ 人工股関節のゆるみ・感染・周囲骨折
・ 小児の大腿骨頸部骨折後の
外傷性大腿骨頭壊死症
・ ペルテス病・大腿骨頭すべり症などの
小児疾患
 治療の中心となる人工股関節置換術(THA:Total Hip Arthroplasty)は、これまでに2,100例以上を執刀し、手術時間は平均30~40分、出血量も最小限に抑えることができ、術後の回復も非常に早いのが特徴です。さらに、若年層の患者さまに対しては、日本で発展してきた関節温存術をCASの力を取り入れることにより、より正確に早く手術することが可能となりました。たとえば、「大腿骨頭回転骨切り術」は股関節手術のなかでももっとも難しい手術と言われていますが、CASでリアルタイムにどこをどの方向に切っているのかを把握することができます。また、術前計画を術中に正確に再現できるので、車のナビゲーション同様、最短で目的地に辿り着くことができ、手術時間も100分程度。出血量も250㏄程度の低侵襲な手術となっています。「骨切り術」の懸念事項でもあった長期入院に対しても、両側性の骨頭壊死であったとしても両側同日に手術することが可能となりました。

―――CAS導入によって再現性が高まり、時間も短縮、術後の成績も向上したのですね。

渡邉
 私が考案した「大腿骨球状内反回転骨切り術(SVRO:Spherical Varus Rotational Osteotomy)」もCASで成り立つ手術のひとつです。大腿骨頭壊死症に対する骨温存外科手術には「大腿骨頭回転骨切り術」と「弯曲内反骨切り術」があり、難易度・手術時間を考慮すると一般的に後者の方が優れていると言われています。そこで私はCASを使用し、大腿骨を球状(弯曲状)に骨切し、内反とともに前方回転を行う「大腿骨球状内反回転骨切り術」を2020年に開発しました。ポイントは、大腿骨を球状にして股関節の可動域に直接影響を及ぼす「前捻角(ぜんねんかく)※」を合わせること。手術の難易度は回転骨切り術ほど難しくはなく、術後の成績は大変良好です。
古くからある「棚形成術」に対しても、CASを取り入れ、移植骨片を臼蓋外側に正確に設置することができて臨床成績も向上しています。このように10代から30代の方には人工関節置換術をできるだけ遅らせ、自己関節を可能な限り残す治療を目指しています。また、従来は術者の経験や勘に頼っていた「骨切り術」においてもCASを導入することで、より正確な施術が可能となりました。結果、術後の成績が向上し、かつては考えられなかった「手術後にスポーツ復帰を果たす」若者たちも増えてきています。
※「前捻角」とは、大腿骨体部と大腿骨頚部の捻じれのこと。正常でも大腿骨体部に対して大腿骨頚部は10度~15度前方に捻じれている状態。

患者さまの生活を取り戻すことがゴール

―――渡邉先生が治療する際に心がけていることは?

渡邉
 私たちが目指しているのは「手術の成功」は当然のことながら、その先にある患者さま一人ひとりの『生活を取り戻す』ことが本当のゴールだと考えています。「歩けるようになる」「痛みなく眠れる」「好きなことを再び楽しめる」――そうした日常を1日でも早く取り戻していただくために、術前の丁寧な説明から、術後のリハビリ、さらには社会復帰に至るまで真摯に向き合うことを常に心がけています。そして手術においてもっとも大切なのが手術の「定型化」です。同じことを進めることで、手術室スタッフたちも安心してついてきてくれます。

―――今後のビジョンをお聞かせください。

渡邉
 当センターでは初診から1カ月以内に手術を行える体制を整えており、「待たせない医療」も大切にしています。早期に治療を受けていただくことで、症状の悪化を防ぎ、より良い結果につなげることができます。さらに今後は、特に若年者に対する骨切り術において、CASの利点を活かしながら、両側同日骨切り術といった、より低侵襲かつ効率的な治療法を追求していきたいと考えています。股関節に悩みを抱えるすべての世代に、最良の治療が届けられるよう、今後も歩みを止めず進化しつづけるセンターでありたいと思います。

―――本日はありがとうございました。

一橋病院
東京都小平市学園西町1-2-25
TEL:042-343-1311(代表)